子供が欲しい夫婦にとって、「出産はいつ頃にした方がいいのか?」というのは急務の課題です。出産適齢期という言葉が言われますが、それは具体的にいつ頃のことを指すのでしょうか。
仕事を続けたい方、子供が三人欲しい方、身体が弱い方、様々な事情を抱えたママがいる中で、「これ」という出産適齢期は存在するのでしょうか。今回はずばり、
出産適齢期はいつ?ということについて考えていくために、まず現代日本の出産年齢の推移について確認した後、出産を若いうちにするメリットと、年齢を重ねてから出産をするメリットの両方を見ていきます。
現代日本の出産年齢の推移
まず、時代によって出産年齢はどのように変わっていったのかを見ていきましょう。1950年では女性の平均結婚年齢は23歳、平均初産年齢は24歳です。それから徐々に上昇し、60年経った2010年では、女性の平均結婚年齢は28歳、平均初産年齢は31歳となっています。ちなみに、男性の平均結婚年齢は1950年で26歳、2010年では30歳。平均初産年齢は1950年で28歳、2010年で32歳。だいたい女性の年齢に2〜4歳足したくらいでほぼ同型の推移をしています。
事実、高齢出産は1993年までは30歳以上の出産のことを指していましたが、徐々に出産年齢が上昇したことにより、WHOなどの定義を参考に、1993年以降は35歳以上による出産とされました。現在の日本は、かつてなら高齢出産と言われた年齢で、1人目を産んでいるということです。
ここから分かることは、平均結婚年齢と平均初産年齢とは正の相関(一方が増加するとき他方も増加するような関係)が高いということです。要するに、日本では出産年齢は徐々に増加しており、それは晩婚化が原因と言えます。
地域別に見てみると、平均初産年齢が最も高いのは東京都の32.3歳。次に神奈川県の31.5歳。以下は京都府(31.1歳)、千葉県(30.9歳)、埼玉県(30.9歳)と続きます。一方、平均初産年齢が最も低いのは、宮崎県の29.3歳、次に福島県(29.4歳)、山口県(29.5歳)、沖縄県(29.6歳)、長崎県(29.7歳)と続きます。本州中央の都市部で年齢が高く、周辺の地方で低いことが分かり、このことから、初産年齢は家賃や最低賃金とも相関が高いことになります。
出産は若いうちがいい?
女性は、一般的に11〜12歳で最初の排卵を迎え、50歳前後で閉経を迎えます。この排卵をしている期間、自然に妊娠し出産する能力があると言えます。統計を見ると、最初の排卵時から数年、つまり10代前半の期間の妊娠率は低いようです。まだ身体が妊娠出産をするのに十分なほど生育していないことと、社会的に学生の身分であることが大きな要因です。
その後の10代後半~30代前半は、身体的、社会的ともに十分な状態になることから、妊娠率が最も高い年齢です。30代後半以後から卵子の機能や状態が低下しはじめ、それに伴い妊娠率も漸減し、40代後半で急減します。50歳以上による出産は、ゼロではありませんが、超高齢出産と言われています。
一般的に、加齢とともに卵子の数が減少し、質も低下するため、妊娠の可能性は下がります。それだけでなく、卵巣をはじめとする臓器の機能も低下し、遷延分娩、分娩時出血量の増加、産道損傷、帝王切開率の上昇を原因とした、早産、死産率も上昇します。2004年の米国の報告によると、妊産婦死亡率は、20〜30歳前半に比べ、30歳後半で2.5倍、40歳以上で5.3倍に増加。
死産率も、2013年の日本の統計によると、20歳〜30歳前半に比べ、35歳後半では1.5倍、40歳では2倍以上に増加します。また、遺伝子疾患が起きるケース、特に新生児のダウン症の発症率についても、母親の出産年齢が高いほど増加し、25歳未満で1/2000、35歳で1/300、40歳で1/100と言われています。
このことを踏まえると、女性の社会進出により晩婚化・妊娠の高齢化が進んでいますが、子どもがほしいと思っている人は、条件が整い次第、なるべく早く子作りについて考え始めた方がいいでしょう。とりわけ二人以上欲しいと思っている人は、初産をいつ迎えるかが、二人目以降を産むタイミングを左右するので、計画が必要です。
出産は年齢を重ねた後の方がいい?
ここまで、高齢出産はハイリスクだと言ってきましたが、それはあくまで、20〜30歳後半の出産と比較した場合の相対的な話です。高齢出産が常に高いリスクを伴うというわけではけしてありませんし、大半の高齢出産は正常に出産を迎えています。現在は医療技術も進歩し、高齢の妊婦が安全に出産できるようになりました。また、不妊治療、人工授精、代理出産の技術も発展し、それに伴う法整備も見直されています。
デンマークの研究によると、年齢を重ねたママによる子育ては、「子供たちの社会性や感情の発達にいい影響を与える」という結果があります。約5000人の母親を対象に子どもの調査を行ったところ、年齢が高い母親の子供たちの方が社会面、感情面、行動面での問題が少なかったのです。
この原因について挙げられたのが、高齢で子供を産む女性の方が(統計的に言って)高い教育を受けていること、子どもの育つ家庭が金銭的に安定していること、夫婦の関係が良好ということ。そして何より、年齢を重ねている母親の方が心理的に成熟しており、育児に適しているということです。
研究に携わった教授によれば、「人間は、年を重ねるごとに社会的地位を上昇させるだけでなく、精神的に柔軟、寛容になる。心理的に成熟した高齢の母親は感情任せに子どもに怒鳴りつけたりすることは少なく、それが子どもの発育に良い影響をもたらしていると言える」とのことです。
また、アメリカの研究によれば、若くして母になった女性は保守的で、いわゆる家父長制に象徴されるような、伝統的な男女の役割分担を重視する傾向がある一方、高齢出産をした女性はリベラルで、自ら生活費を稼いだり、子どもの世話をする責任を男性と公平に分け合う傾向があります。
社会人としての実績を積んだ人ほど結婚や出産が遅れがちというイメージは、日本でも一般的ですね。このことから、「若くして子どもを持つ人が多い地域では、経済的、精神的な意味で男女格差が大きい」とまで言う学者もいます。もちろん個人差はあれど、この分析結果が本当だとすれば、母親が年齢を重ねてから出産をすることが、子供の精神育成にプラスの影響を与えうることになります。
実際のママたちの声
企業でキャリアウーマンとした働くママを対象としたアンケートによると、第一子を産みたい年齢は1位は28歳、2位は25歳、3位は30歳、4位は29歳、5位は26歳と、上位の5位全てが20歳後半〜30歳までという結果でした。実際の統計では、2018年の第一子平均出産年齢はおよそ30歳であり、この結果よりやや遅いといった感じですね。現在の日本に生きるママにとって早すぎず遅すぎない理想の年齢がこの辺りのようです。専業主婦を対象にアンケートを取ればまた変わってくるでしょう。以下は出産したママたちの実際の声です。
「大卒後、5年はしっかり働きたい。その方が育休も取れるし。30前の出産が理想。2~3人は欲しいので、あんまり遅いと後半きつくなる。あとダウン症のリスクが上がらないうちがいい」
「友人達のほとんどが30歳から32歳くらいで産んでいるし、女性の場合は体力的・精神的に最もバランスが良い年齢に思う。仕事もやり、海外旅行も行き、欲しい物もほとんど買った、子育て生活に入ってもそれほど未練がない」
「児童虐待のニュースを見るとほとんどが20代の親。自分も20代で出産してるけど20代前半だったら育児ノイローゼになっていたと思う。親が近くに住んでいたり同居していたり夫以外にも育児の相談に乗ってくれる人がいないなら、30代で産んだ方がいいと思う」
「私は31で一人目、34で二人目を産んだけど、ちょうどよかったと思っています。職場である程度キャリアを積んでたからすぐに好条件で復帰できた。核家族だったから育児と家事の両立は大変だったけど、経済的に安定してるから、ヘルパーさんや保育園を利用してなんとかやってこれました」
「幼児虐待の原因は親が若いせいではなくて、子供を望まなかったカップルに若い人が多かったからでは。逆に30代半ばで授かった方でも、長年望んでいたから溺愛して子離れ出来ないパターンもあると思う。精神的なことは人それぞれ。それより、30才に入ってから不妊治療に通っても遅すぎることが問題。子供を産み育てる環境下にある人なら早い方が良いでしょう」
結局どちらがいいの?
今回の記事の内容をまとめると、①戦後日本の出産年齢は晩婚化とともに徐々に上昇しており、高齢出産の線引きも変化している②出産にまつわるあらゆるリスクは若いうちに産んだほうが少ないことは確か③母親の精神性の点から年齢を重ねた母親の方が育児に適しているという意見もある④実際のママたちの所見は様々ということでした。
ここまで見ると、子供を産む年齢は早い方がいい、あるいは年齢を重ねた方がいいということは一概に言えないようです。仕事と育児を両立させたシングルマザーも増えている昨今、母親の健康状態だけではなく、欲しい子どもの数や仕事との兼ね合い、収入状況などを考慮すると、
全ての人に当てはまるような「出産適齢期」はないということを結論にします。