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11月13日の閣議後の記者会見で、河野太郎規制改革相は、民間から行政機関への申請手続き(住民票の写しの交付請求、婚姻届けや離婚届、年末調整、車検など)において押印を全廃し、法改正が必要なものは来年の通常国会に一括法案を提出する方針を発表しました。「個人の確認にならない認め印は非合理的である」とする河野氏の意向は、押印の廃止にとどまらず、行政手続きのオンライン化まで見据えています。
河野氏は「書類にハンコを押す必要がなくなれば、その手続きは書面でなくオンラインで可能になる」と指摘し、「押印廃止が実現した段階で、いよいよ本丸である行政手続きのオンライン化に取り組む」とも強調しています。内閣府は10月、河野氏の指示を受け、全府省に行政手続きのオンライン化を要請しました。具体的なやり方についてはこれから検討していく段階ですが、オンラインでの記入、電子署名、本人確認書類の添付や郵送といった形式を取ることが考えられます。
オンライン化が推進される行政手続きには当然、婚姻届も含まれているわけです。それでは、実際に婚姻届がオンライン化されたとすれば、我々の生活はどう影響を受けるのでしょうか。想定されるメリット、デメリットについて見ていきましょう。
現状、婚姻届けを提出するには届出人が役所に出向く必要があります。市役所の営業時間は、平日の朝9時から夕方17時が一般的。夜や休日に営業するところも増えてきたとはいえ、平日に働いている人にとっては二人で市役所に行く時間を見つけること自体が一苦労です。
手続きのオンライン化が進めば、婚姻届と戸籍謄本と本人確認書類と印鑑を持参して市役所に出向く必要がなくなり、いつでもどこでも提出することができるようになるでしょう。役所という不特定多数の人がたくさん集まる場所を避けることは、新型コロナが蔓延している現況にあっては、感染リスクを減らせるという意味でも大きなメリットになります。
婚姻届けを提出する際には、所定の書式に記入し、届出人(夫、妻となる人)と証人2名の署名・押印が必要です。オンライン化が実現すればデジタル媒体で書式を埋めることになるため、ペンで紙に書き込むことはなくなります。そのため、印鑑を用意したり、書き損じでやり直しすることもなくなり、書類提出にかかる時間が大きく短縮されるでしょう。
現在、婚姻届が提出されたときに生じる書類の内容確認・受理、戸籍のデータベースへの記録、統計処理、書類の保管といった作業はすべて人が行っています。オンライン化が実現するということは、こうした作業がコンピュータによって自動的に行われることを意味します。これに対応した業務システムの更新、業務フローの最適化、設備投資などが正しくされれば、婚姻届の処理にかかる業務が簡略化され、作業効率が大きく向上するでしょう。これは処理する側の問題ですが、行政機関の窓口での負担が減少することで、対応が早くなったり、コストが削減されたぶん余った予算が他のところで使われたりと、我々の生活も恩恵を受けることになります。
真っ先に考えられるのは、個人情報流出やそれによるトラブル発生のリスク増加です。婚姻届を提出する際には、詳細で多岐にわたる個人情報をネット経由で送ることになるため、証明書の偽造や不正届出といった事例が発生することは免れないでしょう。したがって、行政はセキュリティ対策やフィッシング詐欺防止といった観点も併せて必要になり、本人確認手続き等もより複雑になるため、追加で確認書類が増えることになるかもしれません。
新しいやり方へ移行するときには、それに慣れない人が必ず一定数でてきます。多くの場面でデジタルが普及したとはいえ、パソコンやスマートフォンを使いこなせない人にとって、オンライン化の実現はむしろ望ましくないことかもしれません。行政としても、オンライン操作を苦手とする人のために、一部で現行対応を継続し、インフラ設備の普及や操作指導を行う必要があるでしょう。
婚姻届のオンライン化に対し、一部では、「手続きが簡単すぎて頭を冷やす時間が無くなる」「突発的な結婚が増え、その結果、離婚の件数が急増する」といった意見も見られます。結婚というイベントをその後の人生を左右する一大事とすれば、したくなったときにスマホでいつでも踏み切れてしまうのは考え物かもしれません。また、「二人でお役所に行って印鑑を押すことが憧れだったのでそれがなくなるのはさみしい」といった意見もあります。婚姻届を作成し、提出するまでの流れも結婚に向けた重要なプロセスの一つとみる方にとっては、婚姻届のオンライン化の実現は便利の一言で済む問題でもないようです。