今年もバレンタインの季節がやってきました。日本では、毎年2月14日は女性が男性にチョコを渡す日として、学生にとっては一大イベントであり、多くの職場でもある種の慣習になっています。しかし、今年は大きく違うのがコロナ禍であるということ。感染症対策が重要視される現在、人から人へものを手渡す文化はこれまでとは様相を変えることでしょう。今回の記事では、新型コロナが蔓延する昨今、「義理チョコ」「本命チョコ」をめぐるバレンタイン事情はどうなっていくのかについて考えていきます。新型コロナウイルスの影響で人と会うことが難しくなっている今年ならではのトレンドとは、どのようなものになるのでしょうか。 そもそも義理チョコとは? 「義理チョコ」とは、バレンタインの日に、女性が恋愛感情を伴わない男性に対して贈るチョコレートのこと。好きな人に渡す「本命チョコ」とは一線を画すものであるため、誤解を招かないようにパッケージや価格、渡すシチュエーションなどに不文律のマナーが敷かれ、チョコを渡される側にもその了解が求められます。 「義理」という言葉を辞書で引くと、「社会生活を営む上で、立場上、また道義として、他人に対して務めたり報いたりしなければならないこと」とあります。この言葉が指す通り、「義理チョコ」の目的はコミュニティにおけるコミュニケーションの円滑化であり、「日頃の感謝の気持ちの表出」といった建前のもとで行われる日本独特の社会儀礼です。 義理チョコ配りはなくなる? これまでの日本社会において、男女が共に働く空間であるオフィスでは、バレンタインデー近くになると何十個と入っているボックスや袋包みのチョコレートが用意される光景は一般的でした。不二家や森永製菓などのお菓子会社のイメージ戦略によって普及し、日本社会に根付いたこの文化は、近年、その賛否が議論の対象になってきています。 2018年には、ゴディバジャパンが日本経済新聞の一面に「日本は、義理チョコをやめよう。」という広告を出したことが大きな話題を呼びました。「そもそもバレンタインは、純粋に気持ちを伝える日。社内の人間関係を調整する日ではない。」「儀礼ではない、心からの感情だけを、これからも大切にしたい」といったメッセージが多数の賛同を得、実際に社内での「義理チョコ文化」を禁止する会社も出てきたほどです。 このように、コロナ以前から見られた義理チョコ自粛に向かう動きは、コロナによってますます強まることが予想されます。リモートワークが普及した今、在宅勤務が増え、職場に集まる人数は減っていきますし、不特定多数の人間が触ったものを口にすることは感染対策という観点からも問題視されていきます。こうしたことを要因に、職場で女性が男性にチョコレートを配布する光景はどんどん見られなくなってくるでしょう。「毎年、女性社員でお金を出し合ってスイーツを購入するメンドクサイ風習がなくなるのは大歓迎」「お返しをしなくていいのは助かる」といった実際の声もあります。 ハンドメイドマーケットプレイス「Creema(クリーマ)」を運営する株式会社クリーマがCreemaユーザー1000名を対象に行った「バレンタインに関するアンケート」の結果によれば、コロナ禍でも「バレンタインのギフトを贈る予定」と回答した人が全体の84%を占める一方、その840人のうち「義理チョコを贈る予定がない」と回答した人は68%でした。 もっとも、青春を謳歌する学生にとっては、たとえ義理でも女の子からチョコレートをもらえる日であり、義理チョコと偽って本命チョコをあげられる日でもあります。義理チョコ制度は悪いことばかりではないかもしれません。それでも、これまで述べてきたように、形式的な風習に対する反発の強まりと、近年のコロナ禍の状況を踏まえると、2月14日のバレンタインという日は、「特別な好意を持たない不特定多数の人間に義理チョコをばらまく日」から、「本当に好きな人や大事な人、あるいは自分に対して贈り物をする日」という認識へシフトしていく可能性が十分に考えられます。...